



「装飾テント」をご存じだろうか。
店舗などのファサードに取り付けられている、
あの庇(ひさし)のことである。
店舗テント、オーニングなどとも呼ばれており、
日よけ・雨よけの役割と装飾・宣伝の役割を兼ね備えている。
私は装飾テントが気になってしょうがない。
写真に撮り集め、親しみをこめて「装テン」と呼んでいる。
なぜ気になるのかは自分でも分からない。
忘れている幼児体験で何かあったのか。
今回、祐天寺の装テンを巡見してみた。
街にはいろんな表情がある。
装テンからその街を知ることだってできるはずだ。
さて、上の6つの装テンを見て
あなたは何を感じるだろう。
「いろいろあるなあ」としか思わないかもしれない。
しかし今から数分もしないうちに、
あなたはこれらの装テンを見分け、さくさくと分類し、
その名を呼ぶことができるようになるはずだ。
「別にできるようになりたくない」
という声をさらりと受け流して先へ進む。

■ 装テン基礎知識(1)~平面タイプと立体タイプ~
まずは装テンを見ていく上で
知っておくべき基礎知識を説明しよう。
装テンには大きく分けて
平面タイプと立体タイプがある。
平面タイプは「1枚もの」であり、
立体タイプは正面と側面の両方にテントが張られているものを指す。
また、ドーム型などの特殊な形状も立体タイプに含まれる。

平面タイプ

立体タイプ

■ 装テン基礎知識(2)~タレ~
装テンの重要な要素に「タレ」がある。
タレとは「垂れ」。
ヒラヒラ、と言えばピンとくるだろうか。
テント業界で「前タレ」とも呼ばれているこのヒラヒラは、
見る者に「装テンらしさ」を感じさせる部分だ。
立体タイプにも平面タイプにも、
タレをつける派とつけない派が存在する。
また、タレのデザインにもいろいろある。
味つけは人それぞれというわけだ。

いろんな味のタレがある。
「立体か平面か」「タレつきかタレなしか」
この2つに注目するだけでも、
装テンを見る目がかなり変わってくるはずだ。
これらを踏まえた上で、
まずは立体タイプの装テンを見ていこう。

■ 立体タイプ
立体タイプはカーブ、ストレート、ベンド(折れ曲がり)
の3種に大別できる。
もちろんそれぞれにタレつき・タレなしがある。
[ 立体タイプ/タレつき ]
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カーブ |
ストレート |
ベンド(折れ曲がり) |
[ 立体タイプ/タレなし ]
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![]() |
カーブ |
ストレート |
ベンド(折れ曲がり) |
他にも、カーブでかつ折れ曲がりのある
「カーブ&ベンド」などもあるが、
祐天寺では見あたらなかったので省略する。

他地域で撮影した「カーブ&ベンド」の例。
「ベンド」の折れ曲がり部と「タレ」は混同されやすいが、
裏側から見て骨が入っていればタレとは言えない。
ただし、このような分類はあくまでも
装テンに近づくための手がかりと考えてほしい。
装テンは一つ一つに個性がある。
まったく同じ装テンはないと言っていい。
幅も、傾斜角も、深さ(上下幅)も、カラーもそれぞれ違う。
また仮に同じものがあったとしても、古び方が違う。
それらを丁寧に見ていけば、
装テンは実に味わい深いものなのだ。

■ カーブ
立体タイプの基本が分かったところで、
さらに事例写真を見ながら理解を深めていこう。
まずはカーブから。

カーブ・タレなし・文字入り。
横から見ると、ちょうど円を
4分割した形(クオーターラウンド)
になっており、かわいらしい。

カーブ・タレつき・柄入り・文字入り。
タレが短くちょろちょろ出ているのが特徴。
ちょろタレと呼びたい。
イタリアンレストランかと思いきや、
ここはパン屋さんだった。

カーブ・タレつき・無地。
タレの切り込みが薄く、頼りなげ。
そして名状しがたいカラー。
全体的にはっきりしない装テンである。
しかしこのユルさ、私は嫌いじゃない。

カーブ・タレつき・無地。
先ほどのはっきりしない装テンと構成は同じなのに、
こちらは賑やかな印象を受ける。
色やタレの切り込みなどが、印象を左右しているのだ。

■ ストレート

祐天寺に建国された素敵な共和国。
ストレート・タレつき・文字入り・絵入り。
タレがやや長い。また全面に大きく入れられた
文字と縁取りが特徴的だ。

ストレート・タレつき・文字入り。
切り込みのないシンプルなタレである。
このようなタレを、私は「あっさり風味」と呼んでいる。
あっさり風味タレは、私が特に気にしているポイントである。
「人はなぜ装テンにタレをつけるのか?」という
根元的な問いを突きつけられているような気がするからだ。
装飾性も強くなく、長くもないこのようなタレを見ると、
タレとはいったいなんなのかと考えてしまう。

ストレート・タレなし・文字入り。
じっくり寝かせました、といった風情の実に味のある装テン。
ほんのりと残る赤色が、かつての姿を幻視させる。


ストレート・文字入り。
この半円をタレと呼ぶかどうかは意見の分かれるところだ。
骨組みによってきちんと張られているので、私としては
ベンド(折れ曲がり)のデザインパターンと考えたい。
それにしても、実に堂々とした印象を与える装テンである。

■ ベンド(折れ曲がり)

ベンド・タレなし・無地。
下部にオレンジ色の骨を渡した珍しい装テン。
緑とオレンジの組み合わせが心憎い。


ベンド・タレなし・文字入り。
一瞬ストレートかと思わせる装テンだが、
よく見ると円弧部分がまるごとベンドしている。
粋な装テンテクニックだ。

■ 平面タイプ
続いて平面タイプを見ていきたいが、
こちらは短くまとめる。
[ 平面タイプ/タレつき ]

[ 平面タイプ/タレなし ]

祐天寺の平面タイプは、
圧倒的にタレつきが多かった。
タレなしはわずか数ヶ所だけ。
祐天寺は、タレたっぷりタウンだ。
平面タイプでは、ストライプ柄がよく見られる。
たまにはボーダー柄を見てみたい気もするが、
今のところ出会ったことはない。
ちなみに、平面タイプのベンドというのもあるのだが、
これも祐天寺では見あたらなかった。

他地域で撮影した平面ベンド。
また、平面タイプのカーブ
も、ごく稀に見られるが、
これもまた祐天寺では発見できなかった。

他地域で撮影した貴重な平面カーブ。

さて、冒頭でお見せした6つの装テン写真を
もう一度ご覧いただこう。

どうだろうか。
最初にこの写真を見た時と今とでは、
見え方が違うはずだ。
試しに自分で分類してみてほしい。
一通り分類してみたら、答え合わせを。
上段左「平面タイプ・タレつき・無地」
上段中「立体タイプ・ストレート・タレつき・文字入り」
上段右「立体タイプ・ストレート・タレなし・文字入り」
下段左「立体タイプ・ベンド・タレなし・文字入り」
下段中「立体タイプ・カーブ・タレなし・文字入り」
下段右「平面タイプ・タレなし・無地」

■ 複合タイプ
最後に複合タイプをご覧いただいて、前篇を終わろう。
2種類以上の装テンがミックスされたものだ。
この複合タイプは、予備知識のない初心者が急に見ても
なにがなにやら分からないだろう。
しかしここまで根気よく読み進めてきてくれたあなたは
思う存分、複合プレイを楽しむことができるはずだ。

立体タイプ+平面タイプ。より詳しく言えば、
「立体タイプのベンド・タレつきと、平面タイプ・タレつきの複合」だ。
立体のほうのタレが、もはやどうでもよくなっているところがポイント。

お肉屋さんや八百屋さんでよく見られるパターン。
これ、私はけっこう好きだ。
立体タイプのストレート・タレつき+別ダレかけ。
私はこれを「あわせダレ」と呼んでいる。
別ダレのストライプ柄の唐突感もいい。

見えにくいかもしれないが、
「平面タイプあわせダレ〜パラソルを添えて」である。
立体タイプのように見える上部の赤い屋根は装テンではなかった。
装テンっぽい庇屋根を、装テン愛好家は「フェイク」と呼ぶ。

平面+平面。ダブル平面である。
上部の黄色いテントは店名を掲げる看板の役割を担っている。
一方、下部のストライプ柄のテントは、
日よけ・雨よけの働きを担っている。
この2つの効果を1つにまとめたものが
これまでに見てきた装テンだったわけだが、
あえてそれを分割しているところが特徴。
一般的な装テン(特に立体タイプ)が
「一体型」であることを再認識させてくれる事例だ。

装テンの見方がだいぶ分かってきたところで、
次回は「箱と板」「ぐるテン」「こぶテン」などの
上級者篇をお届けしたい。
明日からあなたも、街を歩きながら
「あ、立体タイプのストレート。タレつき」
などと呟くことができる。
呟きなさい。
装テンの世界へ、ようこそ。


ライター、ピクティスト。

1972年生まれ。

2001年よりピクトさんの収集・研究を始める。

2003年、Web上に「日本ピクトさん学会」を設立。

2007年・2008年に「東京カルチャーカルチャー」にてスライドショーイベント「ピクトさんナイト」を開催。

ピクトさん学の普及に努めている。


